踏みとどまるアラタ
第二十九問から続き、獣(けだもの)になれとせまるミハヤ。
アラタとミハヤの賭けは、アラタが獣になってしまえば、ミハヤの勝ちなので、ひたすらに言葉で追い立ててくるが、アラタがギリギリで踏みとどまった。
しかし、これまでのアラタと踏みとどまる理由が異なることが、ポイントだと思っている。
これまでアラタが踏みとどまってきたのは、
・ミハヤを知る過程も大切にしたい
・体だけでなく心も秘密も欲しい
というものだったからだ。
なのに、今のアラタは獣になって破滅しないために、踏みとどまっていた。
ミハヤへの恋心がどこにいってしまったのかと疑いたくなる心情変化である。
柱場アキトの日記を読み、怪物の夢見てから破綻するまでがあっという間だったのだろうか。
アキトと同じ顛末を辿りたくない恐怖から、視野狭窄に陥ってしまったのだろうか。
目
柱場アキトと為水ショウコが、道を踏み外した原因は、
ミハヤの目を見たから
と推測したアラタ。
ふたりともが、ミハヤの目をつぶしにかかったことから、そこに助かる光を見出したのだろう。
この時のミハヤのイラストは、恐怖を演出する見事なイラストだった。
右目だけが青く爛々と輝き、他は全ての飲みこまんとする漆黒で描かれている。
目にかかる髪の一本一本がまた恐怖を掻き立ててくれ、細緻にとんだ素晴らしいイラストである。
私の「目」を見て答えておくれよ
つれないほど青くて あざといくらいに赤い 第三十問 ー著者 tomomiー
イラスト、セリフ、このあとの展開の全てがかみ合った至高の場面だった。
怪物
ミハヤの瞳に映る怪物を見て、怪物退治せねばと動くアラタ。
しかし、私たち読者から見れば、怪物と化したアラタがミハヤの瞳に映っただけに過ぎない。
目は心の鏡というが、アラタの姿を映す鏡として、怪物が映ったのだ。
そして、最後の2コマが印象的であった。
一つ目は、部屋でミハヤと並ぶアラタ。
二つ目は、アラタの部屋の扉である。
これらがどのようなものを示すものなのか推測が難しい。
一つ目は、アラタの思い出だと推測できるが、二つ目が非常に意味深である。
扉だけ描くのはその中の凶行を想起させる。
管理人としては、ぜひ踏みとどまってほしいし、谷崎潤一郎『春琴抄』のように、自らの目をつぶすような自傷行為をしてほしい。
ミハヤの目を傷つける行為は、これまでと同じ道筋をたどるだけに過ぎないのだから、別ルートをたどるには、異なる行動をとるしか道はないだろう。
ミハヤを傷つけることだけは、絶対にしないでほしいと願うばかりである。
最後に
第三十問で、アラタの気持ちの変化があらわになった。
私たち読者の心を焼いてきたつれ青の青春部分を終わらせてしまう変化が起きていたわけだが、このままいってしまったら、人間vs怪異になってしまう。
思えば、同時公開された八月九日 僕は君に喰われる。の雰囲気と真逆になっているのかもしれない。
次回、二二〇三年三月二十四日予定。
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