知山アラタは、中園ナツメとともに公民館に向かった。
「知らずの間」で見つけたテレビ番組の企画について、話を聞くためである。
公民館で待ち合わせしていた男が語る内容に触れる第五十六問。
加藤
待ち合わせした男の名前は、加藤と名乗った。
(第三十九問より、加藤ナオキが氏名である)
どうやらナツメとなにかしらの因縁があるらしい。
そして、加藤が言う「役目を終え次第、この土地から解放される」というのが意味深である。
「知らずの間」の機能は、隠す本人すらも忘れたいことにまつわるものを隠すことで、誰も彼もきれいさっぱり忘れることができるというものである。
その「知らずの間」から企画書を引っ張り出したことで、加藤も役目を思い出すことができたということなのかもしれない。
その役目とは、町の課題を解決することであろう。
アラタが町長から聞いた「いるはずのないものを見てしまう病」を解決すること、ひいては、いるはずのもの=ミハヤの正体を特定することが役目だと推測する。
よそ者である加藤であればこそ、真実にたどり着く可能性が高いと踏んで、その役目を担ぐはめになったのだろう。
であれば、怪異に鼻が利くナツメが協力しないために、いつまでも役目が終わらないのも納得がいく。
悪魔の証明
加藤の回想が語られる。
脚本通りの映像を撮るために町に来たのだが、町の雰囲気はまるで違った。
流行りのオカルトを狙っていたというから、ホラーチックな情景を期待していたのだろう。
住民たちがお互いを訝しみ、おびえている姿を撮りたかったはずだ。
だがしかし、町では、その生徒に拝み、祈り、もてはやし、目の前にあることに幸福を得ているかのようであった。
しかし、その生徒の姿を加藤は見ることができなかった。
これは、まったくの予想外である。
どうして…
あの人を全否定する気かよ出典:つれないほど青くてあざといくらいに赤い 第五十六問 著者:tomomi
アラタがキレるのも無理はない。
好きなヒトが「存在しない」と言われたら、怒りたくもなるだろう。
ただでさえ、ミハヤは人間扱いされていないのに、存在すら否定されてしまったら、守りようがない。
だが、これが速水ミハヤの正体に近づく一歩であるのだった。
美人
というわけで、当時も同じように、生徒の存在を否定した加藤は、監禁されてしまったらしい。
そして、ふと監禁部屋の格子から外を覗き見ると、喪服を着た壮年の美人が見えたというのだ。
加藤は、その美人を見て「頭がおかしくなったのかと思った」と語る。
きっと人間離れして色香があったのだろう、加藤も一瞬で魅了されたのだ。
しかし、これまでの経緯をふまえると、そんな美人がいるはずはなく、自分も狂ったのだと思うのも無理はない。
だが、これが謎を解くヒントになった。
この認識のズレこそが「速水ミハヤ」の正体を暴く鍵になると思った
出典:つれないほど青くてあざといくらいに赤い 第五十六問 著者:tomomi
加藤の認識では、喪服の美人=速水ミハヤだが、町の住人や生徒の認識は高校生の速水ミハヤである。
もし、速水ミハヤがいる場所で、周りの人間に、その姿を聞いて回ったらどうなるだろうか。
加藤が見ている速水ミハヤと、周りに見えている速水ミハヤの姿が違ったら、どう思うだろうか?
さらに、周りのいる町人Aと町人Bでも答えが違ったら、はたしてどうだろうか?
これこそが、悪魔の証明である。
速水ミハヤは、人によって違う姿を見せるナニカである。人間ではない証明として、十分である。
おわりに
回想の中に謎を残し、加藤の答えは、次回に託された。
果たして、考察通りか否か楽しみに待ちたい。
次回、二〇二四年五月三十一日更新予定。
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